弁護士会ADRによるハーグ条約事案の和解あっせん

名古屋市の離婚弁護士ヒラソルによるハーグ条約離婚弁護

 ハーグ条約に関して言えば、基本的にこどもの監護権・親権はこどもがそれまで生活していたところ(常居所地国)で決めるべきであるという考え方があります。 そして、連れ去りによって、一方的な行為によって有利にことを運ぶ事態は望ましくないとの考え方があります。  ここでいう「不法な子の連れ去り」とは、「連れ去り」つまりremoval,と「留置」つまりretentionの概念が分けられています。日本では、連れ去り等といわれているのは「留置」が含まれていないからです。もっとも、日本では、こうした連れ去りや留置を行うことにより親権の獲得が有利に左右されることから、ハーグ条約と国内法は全く整合性がないということになります。  ハーグ条約が締結されているのは、日本の近辺だけでも、韓国、香港、タイ、シンガポール、北米、欧州ではフランス、ドイツ、イタリア、オランダ、英国など多岐にわたります。特に隣国の韓国や香港、マカオなども対象となっていることに照らすと、欧米人との結婚のケースだけには限られないように思われます。  日本では中央当局は外相が務めます。一般的には、相手の国に乗り込んで・・・というのが普通裁判籍ですが、ハーグ条約の場合は、自分の国で、自分の外相に申請する例が多いといえます。  例えば、平成27年4月には、外相に日本からの返還を直接申請し、日本での裁判を経て返還が実現した、というケースがみられました(アウトゴーイングのケース)。これに対して、日本にいた香港人と中国人との間の子につき、香港の中央当局に直接申立を行い、香港の裁判所の返還命令により日本への返還が実現したという例もありました。  平成26年では、多くが面会交流案件に関するものであるものの、返還援助については、双方向性がみられます。これによりアウトゴーイングをしたとしても取り戻される可能性が高く、ハーグ条約の周知が進んだことにより、アウトゴーイングが減ったという予防効果が働いていると解されます。ハーグ条約は、子の常居所国への返還を原則としており、理想は子の不法な連れ去りが生じないことであると考えられています。そして、本来は連れ去り前に問題解決を図るといった離婚の予防法務が求められる理性的対応が求められるものです。これは、今後の日本法においても、おおいに参考にするべきでしょう。  次に、ハーグ条約では、裁判所だけではなく、愛知県弁護士会などのADR紛争解決センターなどの利用が推奨されています。これは、こどもが原状回復されるというドラスティックな解決ばかりではなく、両親間の友好的な話合いにより、子の返還をする場合の諸条件、または返還しない場合の諸条件を含めた合意に至ることができれば、こどもの最善の利益に資するといえます。  そこで中央当局である外相の所管する外務省は、「協議のあっせん」として、ADR機関と契約をしています。もともと裁判所は東京と大阪ということになりますから、愛知県弁護士会と沖縄弁護士会でもADRによるあっ旋が受けられることはメリットといえます。  和解あっせんの内容としては、子の返還又は面会交流について両当事者の話し合いによる解決を目指す。話し合いの方向性としては、大きく分けて、子を常居所地国に返還すること及びそれに伴う諸条件を整備するパターンがあります。要するに返したうえでの面会交流を基軸に返還後の子の監護や面会交流について話し合います。次に、ステイの場合ですが、子が日本にとどまる場合は、子の監護、面会交流ということを整備することになります。  遠隔地であるということで、日本の家事調停と異なり理性的な建て付けになっているのは欧米の合理的思想を感じさせるものです。  ハーグ条約については、日本にいるこどもについての返還・面会交流について申立がされています。返還事件は裁判所、面会交流はADRへの申立が多いと考えられています。

裁判所での手続

 日本の裁判所では、日本側からみて連れてきてしまった場合、つまりインバウンドのケースでは、夫が日本の裁判所に子の返還申立を提起することになります。管轄は、東京家裁か大阪家裁です。  このようにそもそも、夫側からみてアウトゴーイングのケースでは、日本国内の住所が分からないというケースも少なくありません。外相は、把握した住所は、夫には開示しないことになっています。そこでそのような場合は東京家裁に訴訟提起することになるかと思います。そして、その中で外相に対して調査嘱託を行い、子及び相手方の住所地を把握し手続を進めることになります。  子の返還の申立に当たって、出国禁止命令、旅券提出命令の申立てが併せて行われることがある。これは、現にこどもを監護している者による子の連れ去りや、子を連れ去られた者による自力救済を防止するためといわれています。  攻防の対象は、子の引渡し拒否事由の存在の有無に収斂すると思われます。

原則は、原状回復。例外的に返還拒否事由

 ハーグ条約の理念からいえば、子が16歳未満、子が日本にいる、監護権侵害がある、条約締結国であった場合は原状回復が認められます。これらはたやすく認められる事実といえますから、その余は、離婚紛争につき返還拒否事由があるかどうかにより決まることになります。  具体的には、1年経過後で、かつ、こどもが新たな環境に定着していること、申立人が監護権を行使していなかったこと、こどもの移動に同意していたこと、原状回復させることにより、子の心身に害悪を及ぼすこと、その他こどもを耐えがたい状況に置くこととなる重大な危険があること、子の年齢及び発達の程度に照らして子の意見を考慮することが適当である場合において、子が原状回復を拒んでいること、子の返還が基本的人権に反することなどといえます。  職権主義をベースラインにすつつも、申立人が返還事由を立証し、相手方が返還拒否事由を立証するという構造になっています。 実は、日本では離婚協議が9割以上ですが、離婚協議での話し合いが男性にとって最も有利に解決ができるといわれています。つまり、裁判所は「アウェイ」になってしまうことから、親権や養育費、住宅ローンの問題なども離婚協議で柔軟に解決している方もいらっしゃいます。 しかし、弁護士は協議離婚が苦手です。なぜなら、お金だけとられてしまい離婚届を提出せず、不受理申出をなされ、さらにお金をとられるという事態になっている人が多いからです。ですから、離婚届はなるべく自分でもらい、もらったら夜間窓口に出しに行くことが大事です。離婚届をもらっておきながらいそがしい、いそがしいという間に不受理申出がなされる人もいます。このようにお金だけ払って離婚できないというケースもあります。 次に、子連れ別居の問題です。たしかに男性はこどもをひとりで育てていくのはとても大変なことです。しかし、それでもがんばっている方に裁判所が複数の兄弟のうちひとりが不満をもっているから、精神病が疑われる母親に引き渡せという審判を出したこともありました。離婚に詳しい弁護士に依頼すれば、無駄な紛争は避けて最も公平に勝負できる局面に変えてしまいます。しかしながら、妻がこどもを拉致してしまうと、父親が親権をとることが難しくなることがあります。場合によっては母親の家の環境が悪くても引渡しが命じられるほど、男性は「アウェイ」を離婚の世界では生きているのです。 更に住宅ローンの問題です。住宅ローンがオーバーローンである場合は弁護士をつけるべきです。そしてなるべく協議で養育費や婚姻費用を決めてしまうことです。住宅ローンを抱えていると、意外と年収が高い人でも生活レベルは慎ましいものです。しかし、裁判所の算定表は住宅ローンを次第に考慮してくれなくなってきています。裁判所に持ち込まれてしまうと、妻が住宅に住んでいても住宅ローンがほとんど考慮されず、男性の家の家賃もあることから、破産に近い状態に追い込まれてしまうことがあります。今の日本の裁判所の欠点は住宅ローンに対する認識が甘いことと、男性をうちでの小槌と考えているのではないか、ということです。特に審判になるとキャッシュフローベースの主張はまず取り入れられません。そこで、協議でも調停でも合意をしておく必要があるのです。調停委員は婚姻費用は簡単に決められるので、裁判所にいくと男性は真っ先に「コンピ」といわれます。婚姻費用を決められようとしていますが、ここでももともと節約してきた家庭が別居されたとたん住宅ローンがあるにもかかわらず、ローンがない家庭の同じだけの出費をするのは現実的に困難なのです。そこで住宅ローンの支払をあきらめ最悪残債務があることから破産に追い込まれる直前の男性もいました。これは失敗談かもしれませんが、まずは協議で別居される前に婚姻費用を妻と合意しておき住宅ローンの考慮に理解をしておいてもらうことが最善です。これは書面、しかも綺麗にワープロで書いたものでなければ無意味です。

公正証書は作成前に必ず弁護士の有料相談で意見をもらう!

男性は裁判の場にいくと、「アウェイ」となり、先行きは不利となります。そこで事前に協議でまとめたいという考えもありますが、妻が公正証書を作成したいといってきた場合には、まずは弁護士事務所でリーガルチェックを受けることが大事です。特に、いいかげんな公証人がいる役場では、強引な公正証書でも平気で作成してしまう公証人もいます。そこで、男性の離婚にあたっての味方は弁護士しかいません。特に、「養育費一時金」と称して財産分与がなされていたり、相場の3倍の養育費、500万円の慰謝料など驚いてしまうような内容も多くありません。ただし、それが公正証書になると、なかなか交渉が難しくなります。なぜなら、妻側は夫側をだますつもりで、相場からかけはなれている案で公正証書を作り有利な地位を得たので、あとはどんどん不利に追い込まれていってしまいます。企業にお勤めの方は給与の差押はさけたいところです。未成年者がゼロ歳だと裁判所から「20年分の給与を差し押さえる」という文書が会社に届き、会社は大騒ぎとなります。そしてこれに対する法的救済の手続はありませんので、粘り強く交渉をしていくしかありません。

男性にとっての離婚調停

今の皆さんの気持ちに加えて法的に何が一番良いか、ということを一緒に考えるパートナーとなるとともに、相手方からの法律上認められない要求は勇敢に立ち向かっていく、そのような取り組みを目指しております。これは調停でも変わりません。 調停は女性に優しく設計されていますし、婚姻費用分担調停など成立させやすいものは調停委員の成績アップにもつながるので、利害も一致しているのです。すなわち離婚調停で、子どもの問題や面会交流の問題を話し合うのは、あまり向いていない可能性もあるということを念頭に、弁護士と協議をしながら調停を続けるか打ち切るかのタイミングを決めます。 また、調停には目指すべきゴールがありますが、特に調停委員だけで生活している人などを中心に仕切りが悪い人もいるので、不利な男性の側こそ「仕切り」をしていかなくてはいけない立場だと思った方がよいと考えられます。また、最近は調停は裁判の準備手続と位置づけられているので額面通り「話し合いの手続」と考えるのも妥当ではありません。また、調停は「乗り降り自由のバス」の議論と一緒で、争点整理などといって合意を押し付けられそうになったら退席する勇気も必要です。 訴訟は男性にとってもリスクがあります。一番は婚姻費用のリスクでしょう。妻が専業主婦の場合まとまった額になることもあります。しかし、市役所の無料相談などを渡り歩いている女性は、「あの弁護士がこういった」「あの司法書士がこういった」などといって、無茶な要求を意固地に続ける場合もありますが、その場合調停ではどうしようもありませんから、弁護士と相談して訴訟にシフトするタイミングの判断のお手伝いをすることもできます。

女性の武器「コンピ」

婚姻費用は、離婚交渉において妻側の武器になります。婚姻費用を支払っていないと、所得によっては100万円から200万円程度たまってしまう方もおり「第二の慰謝料」と呼ばれています。婚姻費用は養育費+妻の生活費で所得によりますが、概ね3万円から6万円程度高くなります。ですから、調停委員が仕切りにすすめてくる「コンピ」も他の条件と同時並行に進めていくコツが必要になってきます。

そもそも面会交流すらできない男性もいる

そもそも面会交流自体拒否的な妻の場合は面会交流は事実上難しいといえます。しかし、素晴らしいお父さんという印象をもってもらえれば話は変わってきます。ですから、面会交流でも協力的な態度を示すことが大事です。もっとも良いのは協議で話し合い、親権を得ておくというのが最も簡単ですが、裁判になると容易ではありません。裁判所は現状を尊重する傾向にありますので妻が主たる監護者としてこどもの面倒をみていて別居された場合は、親権を取得することは困難となります。日本では「先に連れて行ったもの勝ち」であり、男性であっても子連れ別居した方がよいともいわれています。 面会交流を拒まれた場合は、書面で理由を記録しておくことなどが有意義なケースもあります。

住宅ローン問題

夫1名で住宅ローンを組んで夫婦離婚の際、自宅に妻とこどもが住むことになる場合があります。協議離婚では、住宅ローンは夫が負担し、それをこどもの養育費代わりにするというものです。 離婚協議では、ローンと養育費を一致させるということをします。自宅に妻が住み男性が別に住居を借りるケースです。早期の離婚を勝ち取るために、今後も住宅ローンの全額を返済していきますが、その代わりにこどもの養育費を現金で振り込まずに済むことになります。他方、自宅に男性夫が住むのもシンプルな解決策ですが、「広すぎる」という問題があるようです。この場合、住宅リーン+養育費となりますので、キャッシュベースで支払可能か検討される必要があります。ローンの場合は夫婦の年収÷住宅ローンの返済額×100となっており、返済比率が20パーセントから30%の範囲におさまっていると、債務者変更の審査も受けやすくなります。ですから、今後、婚姻生活を続けられる方は、返済比率が10パーセントいないのものの物件をおすすめします。そうすると、債務者変更に苦労することも少なくなります。 しかし、住宅ローンを抱えたままであると、再婚した場合、改めての住宅ローンを組むことが難しくなってしまいます。そこで男性が再びローンを組もうとする場合は元妻とこどもが済む家の住宅ローンの債務者から抜ける必要性があります。銀行の再審査のポイントですが返済比率です。返済比率とは、年間返済額÷年収×100で求めます。年収にもよりますが、年収に占める住宅ローン返済の割合は25パーセントから35パーセント以内でないと審査の対象になりません。返済比率が40パーセントになる場合は、どのような要件を満たしていても困難となります。もっとも、妻も非協力な姿勢を示すことが多いといえます。しかし、支払をとめてしまうと男性がブラックリストに載ってしまいます。そこで安易に協議で養育費とローンをバーターするよりも根本的解決を目指す方が相当であると考えています。 保証を外すテクニックとしては、借り換えが考えられます。住宅ローンをそっくりそのまま他の銀行に移し替える方法です。新しい銀行で、住宅ローンを借り入れ、古いものは返してしまいます。そして、新しい銀行で、配偶者を保証人にしないという話しをすれば、なしで審査にかかることになります。いずれにしても返済比率が30%を下回ることが必要であることが多いようです。債務者変更は銀行にとって手間でしかないので、真面目な対応が期待できません。 これに対して、借り換えは新規案件なので親切に対応してくれます。場合によっては「金利が安いから」という動機を説明すればよく、離婚の話しをしなくて済む可能性もあります。   ★面会交流の判例(平成19年11月7日) 1 原審判を取り消す。 2 相手方は,抗告人が未成年者らと3か月に1回の割合で,1回につき1時間,面接交渉をすることを許さなければならない。 3 相手方及び相手方の指定する第三者は,前項により抗告人が未成年者らと面接交渉をする間,面接交渉に立ち会うことができる。 4 第2項の面接交渉の具体的な時期,実施する場所等については,未成年者らの福祉に十分に配慮して当事者間で協議して定めるものとする。 理   由 第1 事案の概要 1 抗告人(原審申立人。昭和49年×月×日生)と相手方(原審相手方。昭和49年×月×日生)は,平成13年×月×日に婚姻し,平成14年×月×日,長女C(未成年者C)が出生し,平成15年×月×日,二女D(未成年者D)及び三女E(未成年者E)が出生した。その後,抗告人と相手方は不仲になり,平成16年×月から別居している。 2 本件は,抗告人が相手方に対し,相手方が監護している未成年者らとの面接交渉を行う時期,方法などについて審判を求めた事案である。 3 原審は,抗告人が未成年者らと面接交渉をすることで,未成年者らに悪影響を及ぼす可能性があることを理由に,抗告人の申立てをいずれも却下した。そこで,抗告人が本件の抗告をして,抗告人が未成年者らと面接交渉をすることを認めること及びその時期,方法などを定めることを求めた。 抗告の理由は,別紙抗告理由書に記載のとおりである。 第2 当裁判所の判断 1 当裁判所は,原審判と異なり,抗告人の未成年者らとの面接交渉を主文2項及び3項のとおり認めるのが相当であると判断する。その理由は以下のとおりである。 2 本件記録によれば,以下の事実が認められる。 (1) 抗告人と相手方は,平成13年×月×日に婚姻し,3人の子をもうけたが,相手方の実家で相手方の両親と同居していたこともあり,嫁姑間の葛藤などが原因で婚姻当初から不和であった。 抗告人と相手方は,平成16年×月に相手方の実家を出てアパートを借りたが,その後も不和は続き,平成16年×月に近隣から抗告人が未成年者らを虐待しているとの通報があったのをきっかけに児童相談所が介入し,抗告人は精神疾患により○○病院に約1か月間入院し,相手方は未成年者らを連れて相手方の実家に戻り,それ以降,相手方が相手方の実家において,相手方の両親とともに未成年者らを監護している。 (2) 抗告人は,平成17年×月,×月及び×月に相手方宅を訪れ,未成年者らと対面したが,その際,未成年者らは不安な態度を示し,抗告人は,相手方の説得に応じて短時間で退去した。抗告人は,その後は相手方宅を訪れることを自粛している。 (3) 未成年者らは,出生から平成16年×月に抗告人と相手方が別居するまでの間,主として抗告人に監護されていた。抗告人による未成年者らの監護状況は,抗告人と相手方の不和や抗告人の精神的な不安定さのため,家事が十分に行われず,育児にも行き届かない面があったことが窺われるが,抗告人が未成年者らに身体的な暴力を加えたことはなく,抗告人と相手方が別居した当時に,未成年者らの心身に問題があった事実は認められない。 未成年者らの年齢を考慮すると,未成年者らは抗告人と同居していた当時の具体的な記憶を有していないものと考えられる。 (4) 抗告人と相手方の別居後は,未成年者らは,相手方及びその両親による監護の下,保育園に通園しているが,心身の発達に問題はなく,概ね安定した生活状態にある。 (5) 抗告人は,平成17年×月から生活保護を受給している。上記のとおり精神疾患を患っており,平成16年×月の○○病院への入院後も数度にわたり同病院に入退院していた。 平成19年×月×日,抗告人が飲酒の上,○○病院を訪れたため,警察に保護されるところとなり,抗告人は,これをきっかけに,借りていたアパートの立退きを要求された。抗告人は,住居の確保の必要性もあって,平成19年×月×日からは□□病院に任意で入院し,薬物療法,精神・作業療法等を受けているが,許可を得て外出することは可能である。□□病院の担当医師は,抗告人が未成年者らと会うことで母親としての意識が芽生えることが期待され,未成年者らと会うことが認められない場合,病棟で抑うつの訴えが増すと思われる旨述べている。 (6) 平成19年9月×日,○○家庭裁判所において,抗告人と未成年者らとの面接交渉の試行が,相手方及び抗告人代理人の立会いの下で約50分間行われた。 抗告人は,面接交渉の試行前には,緊張感も高まり,自分の感情を統制できるか不安を抱いていたが,実際の面接交渉の場面では大声を出したり,涙を流したりなどの感情的な言動は見られず,行動は抑制的であった。抗告人は,未成年者らの一人一人に関心を向け,身体の接触時にも未成年者らのペースを乱すことなく対応した。抗告人は,事前に説明した留意事項や面接時間等を遵守し,同席した家裁調査官や代理人の指示に素直に従った。 未成年者Cは,抗告人が母であるとの認識があり,緊張した様子であったが,抗告人の問いかけにはうなずくなどして反応しており,抗告人が遊びを手伝ったり抱きかかえたりするときにもいやがる態度は見せなかった。未成年者D及び未成年者Eは,やや緊張している様子は見られたものの,抗告人を過度に警戒することなく,自分たちのペースで遊びを継続していた。 3 そこで,面接交渉の可否及びその時期,方法等について検討する。 (1) 本件記録及び上記事実経過によれば, ①抗告人が相手方及び未成年者らと同居していた時期に,未成年者らの監護について不適切な面があったこと,平成17年に抗告人が未成年者らと短時間面接したときに未成年者らが不安な態度を示したことが認められるが,既にその頃から相当期間経過しており,未成年者らが相手方の下で安定した生活をしていることからすると,それらの事情が現在まで未成年者らの情緒面に悪影響を及ぼしているとは考えられないこと, ②抗告人は精神疾患で入院中であるが,面接交渉の試行の際には抑制的に振る舞い,未成年者らのペースを乱すことなく対応し,定められたルールや面接時間を遵守することができたこと,③相手方は,原審においては抗告人との面接交渉によって未成年者らが怯えるなど情緒の安定を害する懸念があることなどから面接交渉には拒否的であったが,当審においては,審問期日,家裁調査官による調査,そして家庭裁判所における試行的面接交渉を経て,試行的面接交渉の終了の時点では,抗告人の抑制的な態度を踏まえて,子どもたちが慣れるまでは回数を少なくするなどの条件の下で面接交渉を認めるとの意向を示すようになり,面接交渉後の未成年者らの心身について配慮をするつもりであると言明したこと, 以上の事実が認められる。そうすると,抗告人が未成年者らと面接交渉をすることによる未成年者らへの具体的な悪影響は考え難く,むしろ,抗告人と未成年者らとの面接交渉は,未成年者らの健全な発達のために有意義であると考えられる上,面接交渉後の未成年者らヘの配慮を相手方に期待することもできるから,抗告人と未成年者らとの面接交渉を認めることが相当である。 (2) 他方,抗告人が未成年者らと最後に会ってから2年以上経過し,その後に1回面接交渉の試行が行われたにすぎないこと,相手方には面接交渉につき協力的な姿勢がみられるが抗告人と相手方の間には十分な信頼関係が形成されているとはいい難いこと,抗告人には精神的に安定していない面があることにかんがみると,当面の面接交渉は,抗告人が未成年者らの成長ぶりを直接見聞するとともに,しばらく途絶えていた母子の接触,交流を回復することを主な目的として実施されるのが相当である。 加えて,抗告人の未成年者らとの面接交渉の試行は,相手方及び抗告人代理人の立会い,協力のもとに実現したこと,未成年者ら3名はいずれも就学前であり,その情緒面や健康面に配慮する必要があること,未成年者ら3名の相手を同時にすることは容易ではなく,補助者が必要であることを併せて考慮すれば,面接交渉の頻度及び時間は3か月に1回1時間程度が相当であり,面接交渉の際には相手方の立会いを認める必要がある。 また,抗告人には精神的に不安定なところがあることからすると,面接交渉の際に抗告人を適切に支えることのできる第三者の立会いを条件とするのが相当である。当面の第三者としては,本件調停,審判を追行し,面接交渉の試行にも立ち会った抗告人代理人が相当であるが,将来的には抗告人と相手方の間で協議の上,抗告人のことを理解できる第三者を相手方が指定することが望ましい。 なお,抗告人には,面接交渉は未成年者らの福祉のための制度であり,面接交渉に当たっては未成年者らの情緒面や健康面に十分配慮する必要があることや,相手方が抗告人との別居後,仕事をしながら未成年者らの監護を行ってきたものであることを理解し,相手方と未成年者らの安定した養育環境を揺るがすことのないよう,十分に配慮した対応をすることが求められる。他方,相手方には,抗告人と未成年者らの面接交渉は,未成年者らの健全な心身の成長にとって有益であることを理解した上,抗告人との面接交渉に協力することが期待される。   ★却下判例(東京高裁平成19年8月22日) 第3 当裁判所の判断 1 本件の事実経過など 本件の事実経過や当事者の意向等は,原審判の「理由」第2の1項に記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,原審判5頁19行目の「小学5年生」を「小学6年生」に,「小学3年生」を「小学4年生」に改める。)。 2 面接交渉を認めることの当否 (1) 離婚の際に未成年の子の親権者と定められなかった親は,子の護に関する処分の一つとして子との面接交渉を求めることができが,その可否は,面接交渉が現実的に子の福祉に合致するかどうという観点から判断されなければならない。 (2) これを本件について検討してみると,上記引用にかかる認定のとおり,未成年者らは,原審において家庭裁判所調査官に対し,いずれも,将来はともかく現在は相手方(父親)と面接はしたくないと明確にその意思を述べている。その意思の基礎には,以前,○○家庭裁判所における面接交渉の調停係属中に,相手方が未成年者らに対して,位置情報確認装置を潜ませたラジコン入りの小包を送ったことによる相手方への不信感があり,その不信感には根深いものがあると認められる。 また,抗告人においても,相手方が,上記のとおり調停係属中にもかかわらず位置情報確認装置を密かに送付したり,抗告人ら親子の居所を探索するために親類や恩師に対して脅迫的言辞を用いたことがあったこと(前件審判における認定)などから,相手方が未成年者らを連れ去るのではないかとの強い恐怖心をいまだに抱いていることが認められるのであり,相手方の面接交渉に関する行動につき信頼が回復されているとはいいがたい。そして,未成年者らが相手方との面接交渉に消極的な姿勢を示しているのは,このような抗告人の心情を察していることも一因となっているものと考えられる。 相手方は,原審での審問において,今後,未成年者らを連れ去ったり,居所を調べるなどのことはしないと述べているが,抗告人や未成年者らの原審における発言等に照らしてみると,その相手方に対する不信感は,このような供述があったからといって容易にぬぐい去ることはできない程度に深いものと認められる。 そうしてみると,現在の状況において,未成年者らと相手方との面接交渉を実施しようとするときには,未成年者らに対して相手方に対する不信感に伴う強いストレスを生じさせることになるばかりか,未成年者らを父親である相手方と母親である抗告人との間の複雑な忠誠葛藤の場面にさらすことになるのであり,その結果,未成年者らの心情の安定を大きく害するなど,その福祉を害するおそれが高いものといわなければならない。 したがって,現在の状況においては,未成年者らと相手方との面接交渉を認めることは相当ではない。 (3) ただ,未成年者らが父親との間で言葉を交わすなどして心情の交流を図ることは,未成年者らの精神面の発達,とりわけその社会性の涵養にとって不可欠であることはいうまでもないところであり,母親である抗告人においても,未成年者らの健全な発育,成長を真剣に願うのであれば,その重要性について十分な認識を抱いて,時間の経過にゆだねるのではなく,そのための環境作りに工夫し努力する必要があることも,またいうまでもないと考える。 記録によれば,原審における調停の過程などで,未成年者らと相手方との接点を設けるためのいくつかの方策が取り上げられたことをうかがうことができるが,今後,双方当事者においては,真に未成年者らのために,まずは手紙の交換など未成年者らと相手方との間接的な交流の機会を設けるなどして,未成年者らと相手方との間の信頼の回復に努めるなど,面接交渉の環境が整うよう格段の努力が重ねられることを期待したい。 3 よって,未成年者らと相手方との面接交渉を命じた原審判は不相当であるから,原審判を取り消し,相手方の本件申立てを却下することとして,主文のとおり決定する。

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