法が整備されても,癒すのは人の温もり。

 書店を歩いていましたら、表題の栞が置いてありました。犯罪被害者の会が出している栞でしたが,私も最後は法ではなく,人の温もりが正義を実現するのだ,と思っています。  さて,私は,離婚後の養育費に関連する相談を女性からも男性からも多くいただいております。  この中で,子どもが愛知県にいて,父親が東京都にいる場合,名古屋で調停を申し立てたところ名古屋で処理しますとの自庁決定が得られず,東京家庭裁判所に移送決定を出されてしまいました。  しかしながら,ご依頼の内容は典型的な母子家庭の母と子が父に養育費を請求するというものでしたので,子どもは愛知県にいます。また,養育費の審判は名古屋家庭裁判所に管轄があります。  このような条文の体裁ぶりは,家事審判法から家事事件手続法になっても変わらないとして,名古屋家庭裁判所に調停を申し立てましたが,移送決定がされてしまいました。  先だつ家事を専門とする裁判官との懇談会でも,新法下での原則移送方針がいわれていて,私は卒倒しそうになってしまいましたが,移送決定を受けて,どうなのだろうという思いを強くします。こうした次第で,名古屋高等裁判所に原決定を取り消すことを求め抗告を行いましたが,これも認められませんでした。  名古屋高裁の判決文は,子どもの養育状況など養育費を決めるにあたり調査する必要はないから子の所在地で行う論拠は認められないと書いてありました。担当裁判官の中には,訴訟指揮に問題があるとして,弁護士らから,国家賠償請求を起こされた裁判官も参与していました。  しかしながら,養育費というのは,子どもの生活費を求め,それを父母の収入に応じて割り付けるという理論構造を持っているのです。  したがって,子の生活費を調べるために,調査を行うべき必要はあるし,そうであるからこそ養育費審判の申立については,子の所在地に管轄が認められているのだと思います。5歳児の母親に東京家裁に行け,という決定には,正義が感じ取れませんでした。  また,法は,調停前置主義をとっておらず、いきなり審判を申し立てることも可能です。しかし,裁判官らの論文をみると,調停を審判の準備のために活用するという思想が明確に打ち出されています。しかし,そうであるならば,調停の管轄と審判の管轄とのズレはどうなるのでしょうか。名古屋高裁の判決には,「それならば審判も東京でやれば良い」と書いてありましたが,母子家庭をとりまく社会的背景をも含めた抗告趣意を提出しました。  このように,審判の前過程で,調停を活用したいというスキームが作られてしまうと,どんどん母子家庭の人達は,養育費の請求を行うことができなくなるのではないか,と思います。もちろん母が働いており相応の報酬を得ている場合は別ですが,調停は電話会議が認められるようになったものの,電話での論点整理や感情面にわたった話をつたえることは簡単ではなく,出頭した方がよいタイミングです,とアドバイスすることがあります。  養育費は子のために支払われるものですから,子の所在地で行う家事審判の管轄の設定には理由があるものです。裁判所には,こうした法の精神をも酌んだ公正な管轄指定をして欲しいと切に願います。

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