父親は嫡出制度を-DNA鑑定で法的親子関係は否定できない。

 NHKの取材も受けていたDNA鑑定ですが、平成26年7月17日最高裁判決により、今後は下火になっていくのではないかと考えられます。  父親のみなさんはあまり理解されていないのですが、結婚しているカップルのうち、結婚後200日、離婚後300日は嫡出の推定が及びます。  そして、この嫡出の推定、つまり「お父さんはあなたですよ」という法律による推理を打ち破るためには、出生から1年以内に嫡出否認の訴えを提起しないといけないと考えられています。  ここが法律にひそんでいる「あべこべ理論」です。  実は行政事件訴訟法にも同じような制度があり、行政処分の取消は処分取消の訴えでしか争うことができませんが、6ヶ月を経過すると俗に言うお上にたてつくという意味の「抗告訴訟」は提起することができなくなってしまい、処分は違法であろうとなかろうと争う術がなくなってしまうのです。ですから、抗告訴訟の制度はむしろ、公定力といって行政の行為が一応正しいという推定を与える論拠にもなっています。  これとパラレルなのが嫡出否認の訴えです。嫡出否認の訴えは、母親が不貞を繰り返していたときに「僕の子どもじゃない」という趣旨で提起するものです。これだけをみると父親を保護するための訴訟のようにみえます。しかしながら、嫡出否認の訴えは出生から1年しか提起することができません。逆にいうと、血縁上の父子関係がどうであれ「1年経過したら父親はあなたに決まり」という制度であり、その趣旨は子どもにとって父親が定まらないという不利益から保護するため、と考えられています。つまり、嫡出否認の訴えというのは、なんと子どもを保護するためのものであり、父親を保護するための制度ではない、ということになります。  そして、裁判所は、DNA鑑定という証拠がある場合はほぼ100パーセントの確率で父子関係が否定されるから、推定が及ばない嫡出子として、「親子関係不存在確認請求事件」を起こしていた父親につき、嫡出の推定が及ばないというのは、父親が刑務所にいっているなど物理的に性交渉を持てないなどのケースをいうのであって、「推定が及ばない嫡出子」という概念の拡大を拒否したと評論することができると思います。  この点は、子どもを保護する視点が重視されたものと解されます。  判決は「夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり、かつ、子が、現時点において夫の下で監護されておらず、妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても、子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから、上記の事情が存在するからといって同条の推定が及ばなくなるものとはいえず、親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である」としています。  このような事情の下では、嫡出の推定を受ける場合、DNA鑑定を行っても法的父子関係は否定できないので、DNA鑑定をやる意味はむしろ減退したというべきかもしれません。  しかしながら、私見は本件事情のように、離婚後、生物学的上の父親の下で順調に成長しているという事情がある場合は養育費の請求は権利の濫用として許されないと解するのが相当であると考えます。この意味では、生物学上の父子関係があるか否かについて確定させておく必要があるように思います。しかしながら、この判決の影響により養育費請求は、通常権利の濫用になると解されますが、そうした解釈も見直しの対象になるかもしれないと思われます。いずれにしてもこの判決は養育費とリンクした判決ではなく、親子関係不存在確認は不適法として却下したにすぎませんので、養育費問題にどのように波及するかが注目されるものと解されます。

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