東京家庭裁判所書記官が技官のミスを隠ぺいするため家事調停記録を廃棄したものの救済されない事例

東京地裁平成19年10月12日 第3 当裁判所の判断  1 前提事実に甲号各証(ただし,甲第57号証から第63号証を除く。),乙号各証及び証人Eの証言,原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。   (1) 原告は,本件各家事調停及び調停外の交渉等を経て,原告の姉であるAが中心となって,Bに対し,原告が精神の病気であるなどと虚偽の事実を告げ,原告の許から離れるよう仕向ける一方,原告がBに真実を伝えようとすると,B自身が半狂乱になるほどの威嚇を加えていると考えた。D技官は,事件4,事件5において,Bについて,「判断能力がない。」と述べたが,原告は,Aらが,Bにマインドコントロールを加え,あたかも第三者からすると統合失調症であるかのように見える言動をとるよう仕向けていると思うに至った。   (2) 原告は,事件7,事件9,事件10等において,C技官や調停委員等に対し,Bは,統合失調症なのではなく,統合失調症であるかのような言動をとるようAらにマインドコントロールされているのであると訴え,人身保護請求によりAらからBを救い出すための資料とするためなどとして,Aらのマインドコントロールの事実等を調停記録に書き留めることなどを求めたが,果たすことができなかった。C技官は,原告に対し,そのように理解しがたい主張を繰り返すようでは,Aらによって,原告自身も統合失調症であるとして,入院させられてしまうといったことを述べさえした。   (3) 原告は,東京家裁に対し,平成8年6月20日,人身保護請求のため必要であるとして,「技官(C先生)の意見の部分」を指定し,本件記録9の閲覧,謄写を申請したが,不許可となった。そこで,原告は,平成8年7月9日,本件記録9全部の閲覧,謄写を申請し,許可を受けて同記録全部の写しを入手したが,その中に,C技官の意見書は含まれていなかった。原告は,本件記録9により,事件9が,「事件が性質上調停をするのに適当でない(当事者が不当な目的でみだりに調停の申立をした)」として終了されていることを知り,調停委員会の措置を不当なものであると考えた。   (4) 原告は,その後,本件各記録の閲覧,謄写の申請を繰り返したが,許可を受け,入手することができた記録部分に,AらやC技官,D技官の意見等が記載されたものはなかった。原告は,事件経過表の経過要旨部分には,両技官の意見等も記載されるものであると考えていたが,入手することができた記録の中に,経過要旨部分に何も記載されていないものがあったことから,両技官の誤診を隠蔽するため,当該部分が改竄されていると考えた。また,原告が当事者とならなかった事件2の記録である本件記録2については,全く閲覧,謄写することができなかった。   (5) 原告は,東京家裁に対し,平成10年5月27日ころ,Aらに対する刑事告発,民事訴訟の証拠として必要であるなどとして,本件記録1から本件記録3について,それぞれ3年間の特別保存に付することを求める要望書を提出しようとした。応対したE書記官は,本件記録1については,同記録が廃棄済であったことから,本件記録2については,事件の当事者でなければ特別保存を要望することはできないと誤解していたことから,それらについての要望書を受理しなかった。E書記官は,本件記録3についての要望書は受理したが,特別保存に付する手続について誤解していたため,家庭裁判所長ではなく,首席書記官の決裁を経ただけで,本件記録3が,特別保存に付されたものとして扱った。E書記官は,平成12年3月3日,本件記録3の取扱について説明を求めに来た原告に対し,「なさず」で終了した調停事件の記録は特別保存に値しないという見解を述べた。   (6) 原告は,東京家裁に対し,平成11年7月12日ころ,Aらに対する刑事告発,民事訴訟の証拠として必要であるなどとして,本件記録4,本件記録5について,それぞれ3年間の特別保存に付すことを求める要望書を提出した。応対したE書記官は,前記のとおり,特別保存に付する手続について誤解していたため,首席書記官から本件記録4,本件記録5の保存期間を延長する旨の決裁を得ただけで,同記録は特別保存に付されたものと考え,原告には,本件記録4,本件記録5の特別保存の許可があったと伝え,事件4,事件5の記録簿には,特別保存に付されたという趣旨で,「保存要望アリ」と記載した。その結果,同記録は,正規の特別保存には付されたわけではなかったが,原告の希望した3年間は,通常の保存期間を越えて保管された。   (7) 原告は,東京家裁に対し,平成11年7月19日ころ,Aらに対する刑事告発,民事訴訟の証拠として必要であるなどとして,本件記録6から本件記録8について,それぞれ3年間の特別保存に付すことを求める要望書を提出しようとした。応対したE書記官は,首席書記官の判断を仰ぐまでもなく,「なさず」で終了した調停事件の記録は特別保存に値しないと考えていたため,本件記録8についての要望書を受理しなかったが,本件記録6,本件記録7についての要望書は受理し,原告に対し,同記録の特別保存が許可されたと伝えた。しかし,実際には,本件記録7について,保存期間を延長する措置は取られていなかった。本件記録6については,正規の特別保存に付されたわけではなかったが,本件記録3,本件記録4と同様,首席書記官の決裁により,原告の希望した3年の間は,通常の保存期間を越えて保管された。   (8) 原告は,東京家裁に対し,平成13年9月12日ころ,Aらを提訴するに際し,証拠として必要であるなどとして,本件記録9,本件記録10の3年間の特別保存を求める要望書を提出しようとした。応対したF事務官は,原告に対し,本件記録9,本件記録10の保存期間は既に満了していること,事件9,事件10が調停事件であることの2点から,当該記録について,特別保存を要請することはできないという誤った教示をし,同要望書を受理しなかった。  2 原告は,C技官,D技官に誤診があり,東京家裁の職員らは,これを隠蔽するため,組織ぐるみで,種々の違法行為を行ったと主張する。   (1) しかしながら,そもそも,C技官,D技官が,Bを統合失調症であると診断していたかどうか定かでなく,仮に,診断していたとしても,それが誤りであり,真実は,AらがBをマインドコントロールしていたにすぎないという原告主張事実を認めるに足りる証拠はない。したがって,両技官の誤診を隠蔽するため,東京家裁の職員らが,種々の違法行為を行ったとする原告の上記主張は,その前提において採用し難い。   (2) 原告は,両技官の誤診を隠蔽するため,本件各記録の閲覧,謄写が不当に制限され,本件各記録が改竄されたという趣旨の主張をするが,同主張は,両技官が誤診したことについての間接事実の主張と理解することもできる。しかし,家事審判官が,本件各記録の閲覧,謄写を一部制限したこと,本件各記録には何も記載されていない部分があったことを根拠に,家事審判官に,両技官の誤診を隠蔽する意図があったとか,本件各記録に,両技官の誤診を隠蔽するための改竄があったとかいうことはできず,上記主張は,原告の憶測にすぎないといわざるを得ない。E書記官が,本件記録3,本件記録7の閲覧,謄写を妨害したとする原告の主張も,同様の間接事実の主張と理解することができ,これに沿う原告の陳述書(甲第89号証の1)と原告のメモ(甲第51号証の4)があるが,甲第41号証,第51号証の2によれば,E書記官は,原告主張の本件記録3の閲覧,謄写申請手続に関与していなかったこと,E書記官が,本件記録7の閲覧,謄写申請書を受理している例があることが認められることからすれば,本件記録3,本件記録7に関する上記主張は採用することができない。   (3) 原告は,東京家裁の職員らが,C技官,D技官の誤診を隠蔽しようとして,本件各家事調停が関連事件であることを故意に無視し,本件各記録を特別保存に付さずに廃棄したとも主張し,同主張も,同様に両技官が誤診したことについての間接事実の主張と理解することもできる。しかし,同主張の推測が成り立つためには,本件各家事調停を関連事件として取り扱わなかったことにより,本件各記録の廃棄が早まったという関係になければならないと考えられるが,通達には,「関連する事件が現に係属し,又は係属することが予想される事件」の記録について,特別保存に付すことが例示されているのであって,本件各家事調停が現に係属していたのは,平成8年8月26日までのことであるのに対し,本件各記録が実際に廃棄されたのは,平成9年11月21日以降のことであるから,本件各家事調停を関連事件として取り扱わなかったことにより,本件各記録の廃棄が早まったという関係にはなかったことが明らかであり,原告の上記推測は失当である。  3 ところで,C技官,D技官の誤診に関する原告の主張とは無関係に,E書記官,F事務官が,原告の特別保存要望に対し,規程,通達の定めに反した処理や教示を行ったことは,前記認定のとおりである。   (1) 原告は,その結果,本件各記録を別件の訴訟資料等として利用することができなくなったと主張する。しかしながら,調停記録を特別保存に付するかどうかは家庭裁判所長の裁量に属するのであるから,E書記官,F事務官が,規程,通達の定めどおりの処理や教示を行えば,本件各記録が,当然に,その後も保管されることになったと断定することはできない。また,原告は,本件各記録は,関連事件として特別保存に付されるべきものであったとも主張するが,そうであったとしても,関連事件として特別保存に付されるべき事由があったのが,平成8年8月26日までのことであることは前示のとおりである。   (2) 仮に,本件各記録が,その後も保管されるべきものであったとしても,本件各記録が廃棄されたことによって,原告にいかなる損害が生じたのか定かでない。本件各記録中,AらがBをマインドコントロールしている等の事実自体の記載があったとは原告も主張しないところであり,原告本人としては,本件各記録のうち原告による閲覧,謄写が許可されなかった部分の中には,Aらの主張,Bの言動,C技官,D技官がBを統合失調症であると診断した根拠等の記載があったはずであり,それらの記載があれば,別件の訴訟手続等において,AらがBをマインドコントロールしている等の事実を立証することができたと考えているのかも知れないが,本件各記録中,上記のような原告主張の立証に資する記載があったとは俄に考えがたい上,当時,原告による閲覧,謄写が許可されなかった部分について,その後,原告が,訴訟資料等として利用することができたと認めるに足りる証拠もないのであって,E書記官,F事務官の行為によって,原告に損害が発生したと認めることはできない。   (3) 原告は,E書記官,F事務官の行為によって,特別保存の要望に対する適正な認定の機会を奪われたとも主張する。しかし,規程には,事件の関係人等が特別保存の要望をすることを予定した定めがなく,通達が,事件の関係人等が特別保存の要望をした場合,「その要望を十分に参酌する」という形で定めていることなどからすれば,事件の関係人等による特別保存の要望は,家庭裁判所長等が,当該記録を特別保存に付するかどうかについて判断する際の資料となるものにすぎず,事件の関係人等に,記録を特別保存に付することを要求する権利があるわけではないと解するのが相当である。したがって,E書記官,F事務官の行為により,特別保存を求める原告の要望に対する家庭裁判所長による認定の機会がなかったからといって,原告に対する権利侵害があったということはできず,この点について,不法行為が成立するということもできない。   (4) なお,原告は,前記認定事実に加え,E書記官が,特別保存の期間は3年であり,特別保存の要望書の定型用紙はないなどと虚偽の教示をし,本件記録3について,特別保存が許可された旨の虚偽の事実を述べたとか,東京家裁の職員が,原告が,本件記録4から本件記録6について,特別保存の延長手続をとろうとした際,虚偽の教示をしたとも主張するが,これを認めるに足りる証拠はなく,仮に,そのような事実があったとしても,原告に損害が生じたと認めるに足りる証拠がなく,不法行為が成立しないことは前示と同様である。  4 よって,主文のとおり判決する。     東京地方裁判所民事第41部         裁判長裁判官  松本光一郎            裁判官  小原一人            裁判官  吉野俊太郎

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