離婚し連れ子を養子縁組するときと相続税の節税目的の縁組意思判例

最高裁平成29年1月31日判決は、専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合と民法802条1項にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」について縁組意思を肯定しました。この判例は離婚し、ステップ家庭における養子縁組意思についても影響があると考えられるので、ここで取り上げたいと思います。 最高裁の判断は、「養子縁組は,嫡出親子関係を創設するものであり,養子は養親の相続人となるところ,養子縁組をすることによる相続税の節税効果は,相続人の数が増加することに伴い,遺産に係る基礎控除額を相続人の数に応じて算出するものとするなどの相続税法の規定によって発生し得るものである。相続税の節税のために養子縁組をすることは,このような節税効果を発生させることを動機として養子縁組をするものにほかならず,相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得るものである。したがって,専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。  そして,前記事実関係の下においては,本件養子縁組について,縁組をする意思がないことをうかがわせる事情はなく,「当事者間に縁組をする意思がないとき」に当たるとすることはできない。」というものでした。  判文からすると,本判決は,節税の動機があれば縁組意思が肯定されて養子縁組が有効になると判断したものではないと思われる。  いわゆる借養子縁組を無効とした昭和23年12月23日第一小法廷判決は,「たとえ養子縁組の届出自体については当事者間に意思の一致があったとしても,それが単に他の目的を達するための便法として仮託されたものに過ぎないときは,養子縁組は効力を生じない。」としており,この判決の内容からすれば,相続税の負担軽減のための便法として,養子縁組を仮装したような場合には,養子縁組が無効となるものと思われます。    なお,相続税法上,遺産に係る基礎控除額の算定の際に,相続人の数に算入される養子の数は,実子がいれば1人,実子がなくても2人までとされており(同法15条2項),その制限内の人数の養子であっても,相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合には,税務署長は,その養子の数をその遺産に係る基礎控除額算定上の相続人の数に算入しないで更正又は決定できる旨が規定されています(同法63条)。 弁護士弁護士と伊串法科大学院生とのパースペクティブ 院生 : 今回の判決ですが、テレビでは説明目的でも養子縁組は有効と判断されていましたが違うのですね。 弁護士: はい。最高裁は、あくまでも、養子縁組意思があることを前提に、節税目的と両立することはできる、トレードオフではない、という判断を示したにすぎないですね。 院生 : 僕も、節税対策で、祖父の養子になって父とは兄弟でもあるんです。地方ではめずらしくないと思いますが、僕の養子も無効ですか。 弁護士: 難しいところですが、原理原則は、「真に養親子関係の設定を欲する効果意思」とする昭和23年の判例があります。 院生 : この規範ですと、僕はおじいちゃんのことはおじいちゃんとしか思っていません。 弁護士: 現実的にそういう問題も生じますよね。そこで政策的に、最高裁は縁組の目的が外の目的のためになされても、「親子としての精神的なつながりをつくる意思」を認めることができる場合には、「真実養親子関係を創設すべき縁組意思があった」と修正するようになりました。昭和38年の判決でまだまだ節税養子の規制が緩いときの話しですね。この判例のため、例えば同居をしていなくても、養子意思があるとされるようになりました。 院生 : ところで、僕は22歳ですからいいとして、未成年者の養子で同居もしていないし、監護もしていないし、という場合にも、養子縁組意思は認められるのでしょうか。素朴に未成年者の養子は原則家裁の許可がいりますが、連れ子養子の場合はいりません。また、直系卑属の場合もいらないですよね。 弁護士: 基本的に養子縁組意思については、最高裁の法理は相続法ありきで進んでしまっています。ですから監護教育の目的のためではなく、相続財産など外の目的の縁組でも有効とされた事案があります。 院生 : 未成年者の場合、財産管理権もないわけですし、何か違和感がありますよね。学説は、未成年者について、監護養育に重点を置く解釈をしており、我妻博士もそうですよね。 弁護士: 養子となるものが未成年者である場合は、要するに、養親が監護教育の責任者になるのであるから、親子としての中核的効果が必要、というものですね。ただ、この流れは裁判実務で程度問題とされて、監護教育の責任者になるつもりがないとまではいえない、と緩和されましたね。 院生 :精神的なつながり程度のものは必要とするものもありますよね。 弁護士:そうですね。最高裁の定式でもありますしね。 院生 :相続法と親族法の交錯があるので難しいですが、相続法が優勢なので、緩和される方向性に疑問を呈する人は少ないように思いますね。 弁護士:やっぱり最高裁平成26年4月14日の影響から監護教育目的としない場合は縁組意思は認めるべきではないので、判旨には疑問があるというのが離婚弁護士の見解でしょうか。匿名コメントにおいても、節税目的があっても直ちに無効にならない、と判断しただけとされて未成年者の養子縁組の問題には触れていません。 院生 :最高裁平成26年4月14日は、養子縁組すれば共同親権になるので親権者変更の申立てができなくなるという判例ですね。 弁護士:そうです。引用すると「民法819条は,1項から5項までにおいて,子の父母が離婚する場合等には,子は父又は母の一方の単独の親権に服することを前提として,親権者の指定等について規定し,これらの規定を受けて,6項において,親権者の変更について規定して,親権者を他の一方に変更することができるとしている。このような同条の規定の構造や同条6項の規定の文理に照らせば,子が実親の一方及び養親の共同親権に服する場合,子の親権者を他の一方の実親に変更することは,同項の予定しないところというべきである。他方,上記の場合において,親権者による親権の行使が不適切なもので子の保護の観点から何らかの措置をとる必要があるときは,親権喪失の審判等を通じて子の保護を図ることも可能である。  そうすると,子が実親の一方及び養親の共同親権に服する場合,民法819条6項の規定に基づき,子の親権者を他の一方の実親に変更することはできない」というものですね。 院生 :どうしてそれが反射するのですか。 弁護士:非親権者である面会交流親については、こどもとの面会交流など親子の関係性を絶つために、縁組がなされることがあるのです。 面会交流の権利性からすれば、面会交流を認めない場合は親権者変更で救済する場合もありますから、未成年者の縁組意思については厳しく考えなければならないというのが、主に親族法の側からの主張ですね。ここに相続法的解釈の配慮はないのですが、相続のことを考えてもこどもに財産管理権はないので、子の福祉とはあまり関係ないと思います。 院生 :弁護士としては、やはり子の福祉から監護教育を目的としない場合、縁組意思は認めるべきではないとなりますね。 弁護士:はい。 院生 :親権者変更の係争中に未成年者養子がなされ、縁組無効確認の裁判も当事務所で行っていますね。 弁護士:既に、26年判例の親族法における具体的妥当性のなさという点が露呈してきたかなと思います。既に、東京高判平成27年2月12日があります。養子縁組がもっぱら相続人の一人の遺留分を減少させることを目的としたものであり無効であるとした原審を取り消し、実質的縁組意思があるとして右縁組を有効とした事例です。 院生 :判決文を読みましたけど、気持ち悪いですね。 弁護士:これは相続分の争いの際に養子縁組がなされたものですが、この程度で縁組意思を肯定されたら困るし、すごい一方に肩入れしている説示になっていますね。 院生 :気持ち悪いのは、「気持ちに応えて安心させるために養子縁組に応じたものと認められるから、Aと控訴人Y1との本件Y1縁組については、両名とも真に親子関係を生じさせようとする意思があった」とか、「口には出さなくても心細い思いをしていたであろうことは容易に推認し得るところである」「親子としての情愛を有する実子や養子から、人的な信頼関係に基づき、安心して援助等を受け、生活の面倒を看てもらうことによって得られる安心感や満足感は全く質の異なる」などですかね。 弁護士:完全に浪花節判決ですね。当事者は納得しないでしょうね。もっとも、この種の裁判は今は最高裁までいかないので、高裁の裁判官が意思を重視するか、浪花節重視かで結論が違ってくることになりますね。 院生 :養子をすることで安心感や満足感というのも、子の福祉と違うのではないかと思いますね。 弁護士:そういう意味で、最高裁29年判例は、法解釈としては分かるのですが、事案の概要としては、特に親権が養親に移転しても、なお実親が監護養育を継続しているのですよね。ですから、本件は破棄自判をするべきではなく、子の利益の観点から、節税目的があっても無効になったことは分かるが、差戻しをするべきで、本当に縁組意思があるかを詰めて判断させるべきだったと思います。29年判例は、解説では、証明責任分配法理を持ち出し縁組意思の不存在を原告が立証しないといけないとして、その立証部分は上告論旨に含まれていないとして、あのような判決に至ったと思います。 院生 :となると、証明活動次第では結論が変わった可能性もある事案といえますね。 弁護士:本当にわずかな点が結論の分かれ道となりますよね。

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